50周年を迎えた東京造形大学が導く、社会とつながる発信の場「在校生コンペティション」

50周年を迎えた東京造形大学が導く、社会とつながる発信の場「在校生コンペティション」

今年創立50周年を迎えた東京造形大学では、2014年から50周年記念事業として多くの企画を行っている。記念事業用のロゴコンペに始まり、同大学の基礎にもなったバウハウスとデザイン教育を語るシンポジウム、写真やガラス、印刷など各学科の活動を知ることができる展覧会やワークショップなども開催。幅広い側面から「社会をつくり出す創造的な造形活動の探求と実践」という教学理念や歩みを振り返ってきた。

その中のひとつ「在校生デザインコンペティション」は、学生グループが各自の専門性を活かし、芸術と社会のつながりを独自のテーマと作品から提案していくものだ。その意義や内容、また、10月25日から東京・青山のスパイラルで開催される展示や、29日に行われる公開最終審査会に向けた制作の経過などについてレポートしたい。

OB・社会人とつくる在校生コンペティション

芸術と社会の関係や影響を説いてきた同校らしく、メインテーマは「社会を創るアートとデザインの力」だ。社会性のある内容ならばサブテーマは自由。すでにプレゼンを元にした第一次選考も終了している。通過グループは数回のアドバイスや指導を受けながら、展示に向けた制作を行っていく。選考や制作には、商業空間デザインを多数手がける丹青社が協力。同校OBを中心に、学生のフレッシュなアイデアをプロの知見と経験でバックアップする体制が整っている。

プロジェクト企画実施委員会のメンバーからアドバイスを受けている学生たち

プロジェクト企画実施委員会のメンバーからアドバイスを受けている学生たち

注目したい点のひとつは、本コンペが「在学生からの社会への発信」の場となっていること。アートやデザインが社会に根づいて発展するには、それらが生み出す表現が人間や生活とどう関わるかを捉え、明確にすることが重要になる。アートやデザインを通して新たな価値をつくり、連携していくことが地域社会の活性化も促す。アートやデザインを含めた芸術と人間、社会を三方良しにする仕組みづくりとその可能性をいかに提示していくかが鍵となる。

野老朝雄、藤森泰司、長岡勉らによる公開審査会に向けて

第1次選考会にエントリーしたのは10グループ。プロジェクト企画実施委員会の玉田俊郎教授と中林鉄太郎教授、丹青社の社員を審査員に迎え、独創性・テーマ性・社会性・発展性・実現性の5項目で採点が行われた。ポイント上位4グループは次の通り。

(1)シャイな僕らの愛の手助け。/グラフィックデザイン
(2)日光写真で発見する町の景観遺産/写真
(3)日常に溶けこむアートとデザイン/室内建築
(4)2020東京Olympicギフト提案/インダストリアルデザイン

この4グループが、10月29日に行われる公開最終審査会に参加する。審査員には、アーティストの野老朝雄さん、デザイナーの藤森泰司さん、長岡勉さんが参加。各グループのプロジェクト内容についても簡単に紹介したい。

シャイな僕らの愛の手助け。/グラフィックデザイン専攻

メンバー:日高基、朝倉大喬、佐奈木敦

「社会に必要な物は愛」をテーマに、愛に引力・会話・時間・障害物・距離と5つの要素を掛けた各種プロダクトを提案。愛+引力では、物理的に距離を縮める「傾斜つきベンチ」、愛+障害物は、反射で会話のきっかけをつくる「水たまりプレート」など15種のアイデアが並ぶ。模型やポスターのほか、水たまりプレートはリアルなプロダクトとして制作が進んでおり、幅広い展示になる予定だ。

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物理的に距離を縮める「傾斜つきベンチ」や、磁力で体がくっついてしまう「マグネットのついた服」など。会話のきっかけになりそうなユニークなアイデアが満載

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アイデアスケッチ

各グループの概要確認後は、多摩美術大学の湯澤幸子准教授ほか、丹青社チームがさまざまな視点からアドバイスを行った。初回のアドバイスでは、「プレゼンボードやコンセプトも明確だが、水たまりプレートの反応は実際に実験して動画などで紹介すべき」などのアドバイスがあった。

日光写真で発見する町の景観遺産/写真専攻

メンバー:久光菜津美、土屋萌、橋立梨乃、石戸ひな、寺内遥奈、大塚美帆

山梨県の「富士の水まちプロジェクト」に参加し、織物工場が多い地域ならではの社会交流の様子をフォトグラム(カメラを使わず、印画紙の上に直接ものを置いて感光させた作品)として残そうという試み。具体的には地元の織物(布)をフォトグラム用印画紙の代わりに利用し、地域で探した葉や草や農具などを素材として転写する。10月には、転写体験ができるワークショップも開く予定だ。

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その土地で拾った植物や石などで感光しているところ

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感光した布は、藍染めやろうけつ染めのような風合いになる

写真と地域社会をつなげるテーマが幅広すぎるのか、「ワークショップに比重を置きすぎないように。まずは自分たちの体験やテーマ、思いが伝わる方法を考えて」との厳しい指摘が。一方「時間の経過が作品に出ると、交流の深さが表現しやすく社会的意義も出しやすい。作品にどんな形で生活を入れ込むか考えてみてほしい」など、展開のヒントも伝えられた。ほかにも解説がなくても伝わる作品づくりや展示など、同グループにとって取り組みがいのある課題が出された。

日常に溶けこむアートとデザイン/室内建築専攻

メンバー:髙橋ひまわり、松浦光紗、田中俊平、リ・スヒョン、加藤鮎美

「AMC(アート・ミュージアム・シティ)」プロジェクトは、公共での表現空間が減りつつある現状や、グラフィティなど倫理の境界上にある表現行為を例に、アーティストが活躍できる表現空間を新たにつくり、アートと人を近づけようとする試みだ。市街のフィールドワークからおもに六本木のビル街のすき間に着目、その数十例をパターンに分類。データを元に動線計画を妨げない構造のギャラリー「City Absent Gallery」を設計し、都市にアートを組み込む提案を行う。展示では1/20のギャラリー模型と1/200の都市模型を比較、展開する予定。

ダミー

広告やアートを掲載する場所としては考えられていない、マンホールや駅のホームの下、ビルのすき間など

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建物のあいだにスペースをつくれないか、パターン化して試行錯誤

アドバイスでは、「アクセス方法など社会と建物の接点をわかりやすく示してはどうか」、「アーティストやアートなど捉え方が広い言葉は独自の定義を持ち、アートと倫理の境界線もスタンスを決めておく必要がある」など、補足すべき点が指摘された。一方「ビルのすき間を活用する視点はよい。空きビルも多い昨今だけにギャラリーがビルの再利用にも繋がれば、都心ならではの社会問題を解決する提案となりそう」と評価される場面もあった。

2020東京Olympicギフト提案/ID専攻

メンバー:富成紗良、山下碧、綿引遥香

「社会をつくるアートとデザイン」をテーマに、東京オリンピック用応援グッズから日本文化をアピールしようとするプロジェクト。外国人の日本文化に対する認識のズレも縮める「Japanese Omatsuri Style」を提案。五感に訴えかけるアイテムとして拍子木を選び、手ぬぐい柄によるデザイン性はもとより、安全性に富んだ「トング型拍子木」を制作している。

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従来の応援グッズの一例

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3色でカラフルに彩られた拍子木

「さまざまな競技や場所で使えるよう音量を調節できる仕組みを検討しては」、「実際に使って周りの反応を調査してみるべき」などの改善点や調査点の指摘のみならず、「コンセプトだけ残し、鈴などで考えてもよさそう」など根源に立ち戻るような提案も。「日本人の協調性やおもてなしの心を伝えるものにできそう」との意見もあり、学生たちはプロダクトデザインの奥深さや、世の中の商品にどれだけの思考と追求がされているかを体感しているようだった。

授業では得られない創作の視点と取り組み

外部アドバイザーによる指導は残り2回。今回のコンペ参加により、学生たちも新たな経験をしているようだ。たとえば、

「制作物の先を考えたり、どう調整すれば受け入れてもらえるかなどを深く突き詰められる」
「自己満足ではなく、制作物が社会や人にどんな影響を与えるかと見直すことができて新鮮」
と、一つの制作物を何度も考え直す重要性を実感する学生は多い。また、

「幅広い人に伝わる言葉で話す力の必要性が実感できる。今伝える力を養えれば、今後にも活かせるはず」
「学生にはないプロの経験を聞けるいい機会。そのアドバイスやヒントを各自のめざすプロダクトに反映したい」
と、社会に出た時の糧としてとらえる学生もいた。

どの学生も、制作の中で自分なりの手応えや新鮮な発見を得ることで、確実に成長しているように感じられた。引き続きこれらの4グループは、苦しくも楽しい試行錯誤を行う制作の日々が続く。1か月半後、どんな作品ができあがっているだろうか。1966年から「社会をつくり出す創造的な造形活動の探求と実践」に務めてきた東京造形大学。その在校生の取り組みの結果を、ぜひ現地で確認していただきたい。

■在学生コンペティション:社会を創るアートとデザインの力
会期:10月25日(火)~11月3日(木)
時間:11:00~20:00
会場:スパイラルガーデン

取材・文:木村早苗

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