ミラノで奮闘する日本の家具メーカーに見るブランド確立の道、サローネ出展の意義

日本の家具メーカーとして初めてホール16に出展したマルニ木工、Photography: Nacása & Partners Inc.日本の家具メーカーとして初めてホール16に出展したマルニ木工、Photography: Nacása & Partners Inc.

2016年4月12日から4月17日までの六日間、ロー・フィエラミラノにて開催された第55回Salone del Mobile.Milano(ミラノサローネ国際家具見本市、以下サローネ)。家具と共にキッチン・バスルームと照明・オフィスが一年おきにフォーカスされ、今年はキッチン・バスルームの年であった。来場者数は372,151人で、キッチンとバスルームの見本市が併催された2014年と比較すると4%の増加。毎年、日本からも大勢が訪問しているが、ここ数年は中国勢が一大勢力となっている。

そんな世界最大の家具見本市であるサローネにおける日本のメーカーの存在感は?と言うと、それは非常に限定的なもの。2400を越える出展者のうち日本からの出展はわずか6社。そもそも日本の家具メーカーがサローネに参加できるようになったのは2008年から実施された経済産業省の「生活関連産業ブランド育成事業(sozo_comm)」がきっかけで、この合同展で手がかりを得たメーカーが事業終了後にそれぞれの道を切り開いている状況だ。

2008年のサローネに出展した「sozo_comm」の様子

2008年のサローネに出展した「sozo_comm」の様子

こうした状況なので、サローネ8年目のマルニ木工が超一流ブランド揃いのホール16に、同じく8年目のRitzwell(リッツウェル)が著名な欧州勢の揃うホール5に、それぞれ移動できたことは注目に値する。これは家具に限らず、日本のデザイン、ものづくり、それらを通したブランディング活動がひとつ上のレベルに進化した貴重な事例と見ることもできる。

ここでは、サローネの概要を振り返ると共に、サローネで活躍する日本の家具メーカー6社と、市内で独自に展示していた日本の家具ブランド三つを紹介する。

サローネ
・Ritzwell(リッツウェル)
・シラカワ
・カリモク家具
・飛騨産業
・サンワカンパニー
・マルニ木工

ミラノ市内
・カリモクニュースタンダード
・Yamakawa Rattan(ヤマカワラタン)
・宮崎椅子製作所

多くの人で賑わう2016年のサローネ

多くの人で賑わう2016年のサローネ

サローネ出展の難しさ、ミラノで家具をプレゼンする意味

2016年のサローネを振り返り、主催者Federlegno Arredo Eventi spaのロベルト・ズナイデロ社長は次のように語っている。「67%の来場者が海外からです。そのほとんどの皆さんは、影響力のある仕事をしており、強い購買力を持っています。出展者の方々のコメントからも、依然としてサローネは国際的に大きな使命を持ち、イタリアの輸出において重要な役割を果たしていることが確認できました」。単に来場者が増えただけではなく中身を伴っていること、プリスクリプター(建築家、デザイナー等)や報道関係、そしてバイヤーが多いことを強調している。

サローネの会場、ロー・フィエラミラノの展示面積は東京ビッグサイト全館の2.5倍ほどあるのだが、サローネはその全てを使い切っている。この物理的な限界の中で来場者を着実に増やしていくことは、そう簡単ではない。出展者の選別、適切なコマ数の設定やゾーニング等は、過去の成果をベースに各社の可能性を推し量り、非常に難しい議論の末に決定しているようだ。そして、全世界的なPR、ミラノ市の他それを読むとの連携、イタリア首相等のVIPの来場といった総合力によって、先のズナイデロ社長のコメントにあるような数と実が達成されているのだろう。

言うまでもなく、新規出展のハードルも非常に高い。高いと言うよりも、無理に近いほど難しいと言った方が実情に即しているかも知れない。そもそもの成り立ちがイタリアの家具の輸出振興として戦後に始まったので、サローネにおいてはイタリアの家具ブランドの存在感が圧倒的だ。そして今なお、家具のトレンドという意味ではイタリアが世界をリードする一国であることも間違いはない。その裏付けが、数多くの個性豊かなイタリアの家具ブランドとサローネの存在だ。

(左上)イタリアを代表するブランドの一つCassina 今年のブースデザインを手がけたのはパトリシア・ウルキオラ、(右上)Kartell 初日には大御所揃いの参加デザイナーで記念撮影、日本からは吉岡徳仁氏と佐藤オオキ氏(左端の二人)、中央でポーズを取るのはフィリップ・スタルク氏、その後ろでスタルク氏の肩に手をするのはKartellのクラウディオ・ルーティ社長、(左下)GERVASONI 全てのデザインはイタリアデザイン界の重鎮パオラ・ナヴォーネが手がける、(右下)ミラノ北部には家具工場が集中しており産地と見本市が密接に関わっている、写真はRiva1920

(左上)Cassina、今年のブースデザインを手がけたのはパトリシア・ウルキオラ
(右上)Kartell、初日には大御所揃いの参加デザイナーで記念撮影
(左下)イタリアデザイン界の重鎮パオラ・ナヴォーネがディレクションするGERVASONI
(右下)ミラノ北部には家具工場が集中しており産地と見本市が密接に関わっている、写真は無垢の木製家具で知られるRiva1920の工場

全世界から100万人以上を集めるミラノデザインウィークと、その中核のサローネ。居並ぶ老舗や著名ブランド達を前に、その本拠地において、日本の家具が奮闘している。

Ritzwell(リッツウェル)

サローネには8年目の出展。2016年は日本メーカーとして初となるホール5での展開となった。ホール5にはFlexform、Carl Hansen & Son、GERVASONI、PoliformやBaxter等、世界レベルで個性が認められたブランドが多く出展しており、隣接するホール7(Minotti、ceccotti、Arflex等が出展する)とともにサローネ来場者にとって重要なフロアとなっている。出展者によると商談や受注も順調で、今後はハイエンド市場を牽引する存在になることを目指したいとのことだ。

リッツウェル Photo:Alberto Strada,Styling:Alessandra Orzali

リッツウェル、今年のコンセプトは「木目の存在を引き立てるニュアンスのあるBLACKとWHITE」Photo:Alberto Strada,Styling:Alessandra Orzali


リッツウェル、デザイナー宮本晋作による新商品が発表された、ブースと空間インスタレーションはアート・ディレクターRoberto Di Stefanoによる Photo:Alberto Strada,Styling:Alessandra Orzali

リッツウェル、デザイナー宮本晋作による新商品が発表された、ブースと空間インスタレーションはアート・ディレクターRoberto Di Stefanoによる Photo:Alberto Strada,Styling:Alessandra Orzali

シラカワ

サローネには4年目の出展となる、飛騨高山の大手家具メーカー。「日本のモダン」を製品コンセプトに、欧州のモダンデザインだけではなく日本の歴史文化に育まれた和風をふまえて、微妙な曲面曲線を持つ家具を量産することを強みとしている。

シラカワ、自社製品のプレゼンテーションだけでなく、高品位な椅子のパーツ一式を提供するビジネスも提案していた。

シラカワ、自社製品のプレゼンテーションだけでなく、高品位な椅子のパーツ一式を提供するビジネスも提案していた。

カリモク家具

サローネには9年目の出展。日本最大の木製家具メーカーであり、同時期にミラノ市内では家具ブランド「カリモクニュースタンダード」も展開している。サローネ会場では、人間工学に基づいて研究し快適な座り心地を実現したソファや、細部に至る繊細な加工技術が活かされたダイニングチェア、木製キャビネットの電子ピアノなどを展示した。

カリモク、幅広い製品による様々なシーンのプレゼンテーション

カリモク、幅広い製品による様々なシーンのプレゼンテーション

飛騨産業

サローネには4年目の出展となる、飛騨高山の最大手家具メーカー。スイスの建築・デザイン事務所アトリエ・オイとの共同による椅子とテーブル「Gifoï」を発表していた。これは川上元美氏がデザインした家具シリーズ「KISARAGI」でも使われている杉柾目圧縮材を使ったもの。「Gifoï」はすでにイタリアのブランドDANESEより欧米で販売されることが決定しているという。

飛騨産業、手前は「KISARAGI」シリーズ

飛騨産業、手前は「KISARAGI」シリーズ

飛騨産業の「Gifoï」、デザインはスイスの建築・デザイン事務所アトリエ・オイ

飛騨産業の「Gifoï」、デザインはスイスの建築・デザイン事務所アトリエ・オイ、DANESEより欧米での販売が決まっている

サンワカンパニー

2016年は隔年開催のキッチンの見本市「エウロクチーナ」が開催され、日本からはサンワカンパニーが初出展した。日本のキッチンメーカーでは唯一の出展で、テーマは「和魂洋才」(modern in style, Japanese in spirit.)。4種類のキッチンを提案、いずれも日本ならではの素材、技術、ライフスタイルを活用・反映させたもので、来場者からも好評だったそうだ。初出展ながら、ブースは主動線に面した三面開口という好立地で、これは日本のキッチンメーカーへの評価と共に主催者からの期待ということなのだろう。

サンワカンパニーのブース全景、三面開口という好立地でデビューした

サンワカンパニーのブース全景、三面開口という好立地でデビューした

サンワカンパニー

サンワカンパニー「AFFILATO HIDE」、狭小住宅向けのコンパクトキッチン

サンワカンパニー

サンワカンパニー「CERAGINO」、培ったノウハウを詰め込みリビングダイニングの主役になるようにデザインされたコンパクトキッチン

マルニ木工

サローネには8年目の出展。今年は世界的な超一流ブランドが揃うホール16での展開となった。16ホールにはMOROSO、Glas Italia、bosaといった日本でもよく知られるブランドや、NATUZZI、arper、MDF Italiaといったイタリアを代表する大手家具ブランドの大規模ブースが軒を連ねる。隣接するホール20(CassinaやKartel等が出展する)と共に、新製品やデザインのトレンドを把握するには必須のフロアとなっており、最もサローネらしい場所のひとつと言える。

そのホール16でのデビューとなるマルニ木工。例年のように深澤直人氏とジャスパー・モリソン氏による新製品が発表されたのだが、その新製品とそれらを見せる空間は、思い切ったものであった。

多くの来場者で賑わうマルニ木工のブース、Photography: Nacása & Partners Inc.

多くの来場者で賑わうマルニ木工のブース、Photography: Nacása & Partners Inc.

製品は4種の椅子で、いずれも鉄を使っている。会社名にもあるように木を使った家具に特徴があるのだが、今年の新製品は適材適所と表現するにふさわしい素材使いであり、二人のデザイナーそれぞれのアプローチの違いに個性が見て取れる興味深いものであった。

それらを見せる空間も大胆なもので、こちらも例年同様に深澤氏によるディレクション。ブースの最大高は6m近いのだが、開口部のほとんどをオフィスと同程度の3m程の天井高とし、それにサインと照明の機能を持たせた。この天井のラインによって、他のブースには見られない水平の強調が感じられ、自ずと目がその下に並べられた椅子に向かう。そして、それらの椅子は通路側に背面を向けて整然と並んでいる。装飾らしい装飾はないのだがブース自体が強烈なアイキャッチとなり、次第に木の質感に誘われるように来訪者は椅子へと近づいていく。

ホール16での出展についてマルニ木工からは「今まで苦労して声をかけていたバイヤーが来てくれた」という声を得た。やはりホールによる効果は大きいようで、かつてない程の来場者とビジネスの手応えがあったそうだ。

マルニ木工、深澤直人氏デザインの「HIROSHIMA」シリーズのスタッキングチェア(左)とスツール(右)Photography: Nacása & Partners Inc.

マルニ木工、深澤直人氏デザインの「HIROSHIMA」シリーズのスタッキングチェア(左)とスツール(右)Photography: Nacása & Partners Inc.


マルニ木工、ジャスパー・モリソン氏デザインの椅子「T」(左)とスツール「O」(中)Photography: Nacása & Partners Inc.

マルニ木工、ジャスパー・モリソン氏デザインの椅子「T」(左)とスツール「O」(中)Photography: Nacása & Partners Inc.

以下は、サローネではなくミラノ市内で展開していた日本の家具ブランド。

カリモクニュースタンダード

毎年、ミラノ市中のギャラリーやオフィスといった個性あふれる会場で、リアルなコーディネートを見せるカリモクニュースタンダード。今年は、イタリアを拠点にする韓国人アーティストのCHUNG Uen-Moとコラボレーションして、彼女の作品とともに空間を構成していた。出展した場所は、それを読むが始まって3年目の最近注目されている「5 vie」地区で、ミラノ中心部にありながら、定番の「ブレラ」地区とは異なる新鮮さを感じた。場所、会場、空間作りなど、個性が自由に発揮できるのはミラノ市内の展示ならでは。

カリモクニュースタンダードは、2016年1月のケルン国際家具見本市にも出展しているのだが、そこでは見本市会場内にブースを構え製品を見せることに徹していた。ミラノとケルンの使い分けを実践している日本のブランドとして唯一の存在である。

カリモクニュースタンダード、写真:太田拓実

カリモクニュースタンダード、写真:太田拓実

Yamakawa Rattan(ヤマカワラタン)

ラタン(籐)を使った家具メーカーとして世界トップレベルと評されている。展示会場は昨年と同じで、広い中庭と陽光溢れる室内を持つことが特徴。中庭の主役は屋外家具で、それを室内家具と対比することにより、素材や製法の微妙な違いが浮かび上がってくる。ラタンの自然な色合いとコーディネートされたクッションやパネルの色調も爽やか。製品や品質だけでなく展示も評判が良かったそうだ。製品づくりを支える素材や技術の展示もあり、シンプルな構成ながら情報の奥行きが感じられた。ちなみに、ラタン資源の85%はインドネシアにあるので、距離のアドバンテージは欧州よりも日本にあると言える。

Yamakawa Rattan

Yamakawa Rattan

宮崎椅子製作所

徳島県の家具メーカーで椅子を得意とする。ミラノ中心部のブレラ地区で展示を続けている。昨年までは加工技術等にフォーカスして一脚一脚を見せていたが、今年は小泉誠氏がデザインした椅子「Uチェア」と村澤一晃氏がデザインした椅子「pepe」を中心に据え、ウォールナットと黒革という仕上げで統一。説明的なサインは控え目に、会場の壁面と同じオフホワイトの段ボール什器で二つの円弧を作り、空間の表と裏が一体になるような空間で展示していた。会場構成は小泉氏。毎年、同じ場所で開催することでその存在が定着しているためか、ゆっくりと熱心に見る来場者が多いのが印象的。

宮崎椅子製作所

宮崎椅子製作所

以上、巨大なミラノサローネ、ミラノデザインウィークにおいて奮闘している日本の家具の概況だ。ともすると、派手なインスタレーションや認知度あるブランドの動向ばかりが注目を集めるミラノデザインウィークだが、中核である家具においても、少数ではあるが個性を認められている日本のメーカー・ブランドがある。

強力な先駆者やライバルがひしめく中で、日本の美意識、デザイン、ものづくりを発信するこれらの取り組み。商売の厳しさの最先端の場で、どのような評価を受け進化していくのか。それは、巨大なミラノデザインウィークを切り取る欠かせない視点の一つであるばかりでなく、日本のデザインやものづくりの将来を示す指針ともなりうるだろう。

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