第24回:紙の立体作品「ART BY THE HAND」

第24回:紙の立体作品「ART BY THE HAND」

すごい紙モノを紹介するこの連載もちょうど2年。ネタが尽きるどころか、次々と驚く紙モノが登場し、楽しみながら原稿を書いています。今年もどんな紙モノと出会えるのかワクワクします。

さて今回紹介するのは、アートディレクター八木秀人さんの作品「ART BY THE HAND」です。石膏やプラスチックのように見えますが、スチレンボードと紙を積層した立体作品です。紙を積み重ねてつくり出されたさまざまなメッセージが作品になっています。

(以下写真提供:Hand)

「Find your flow」

「Find your flow」

「All things have a light and a dark side」

「All things have a light and a dark side」

これらの作品は、2017年にニューヨークで発表され、2018年の年末に竹尾 青山見本帖で展示されていました。その時の展示写真がこちら。12点の作品が並んでいます。

八木秀人の作品 竹尾での展示風景

八木秀人の作品 竹尾での展示風景

八木秀人の作品 竹尾での展示風景

真っ白な紙の層とそこから生まれる陰影が美しく、目を奪われました。どうやってつくっているのか気になったので、作品の制作プロセスをうかがってみました。

まず、気になった言葉を英語化し、その文章からインスピレーションを受けた形を自由にスケッチするそうです。それを大きく引き伸ばし、丁寧に図面に描き起こします。その図面を「エアラス」という紙に印刷して、厚さ3mm、5mmのスチレンボードに貼り、文字の形に沿ってカット。最後に図面通り重ねて完成。プロッターなどの器具でカットしたのかと思いきや、すべてカッターで切っているのだとか。

八木さんはNY ADC、D&AD、カンヌなど、世界的なデザイン賞を受賞し、広告の分野で活躍されていますが、手を動かして制作された作品も多くあります。中でも印象深かったのが、カッターブランド「CUTTER ART OF OLFA」のポスターです。真っ白な紙をカッターでカットした、シンプルで潔いポスターですが、初めて見た時、あまりの緻密さに驚きました。現在の作品につながるものを感じます。

「CUTTER ART OF OLFA」(2009年)

「CUTTER ART OF OLFA」(2009年)

「CUTTER ART OF OLFA」展のポスター(2011年) http://handdesign.jp/works/cutter-art-of-olfa/

「CUTTER ART OF OLFA」展のポスター(2011年)

このような作品は、アイデアを考えた本人が手を動かして、試行錯誤しながらつくらないと、うまくできません。加工業者に図面を渡してつくってもらっても、図面通りのものしかできないからです。突然、このようなアイデアを思いついたとしてもこのクオリティは出せないですし、ライフワークとしてずっと続けてきたからこその表現ではないかと思います。

「以前、外資系で働いていた時にまったくうだつが上がらず、何か自分の得意分野がないかと仕事終わりに作業ルームで紙を切って試行錯誤していたら、たまたま面白いと思える形が現れました。その感覚を信じてずっと今までコツコツ積み上げてきたというのが正直な実感です。

私にとってすべての人生は、今までの積み重ねから成り立っていると思っていて、その日々の積み重ねの中で自分が大切にしている言葉を重ね合わせてみました。作品を通してさまざまな人種や年代の人たちとコミュニケーションをとっていけたらうれしく思います」(八木さん)

頭で考えながら、手ですぐに加工できるのは紙という素材ならでは。作家本人の思考がダイレクトに反映される素材だからこそ、独自の表現が生まれるのかもしれません。映像や建築など、他のジャンルにも拡張できそうな広がりを感じた作品でした。

PILED UP MESSAGES

Hand

宮後優子(グラフィック社)

宮後優子(編集者/Book&Designディレクター)

宮後優子(みやご・ゆうこ)
編集者/Book&Designディレクター。東京藝術大学で美学美術史を学んだ後、出版社の編集者に。デザイン専門誌『デザインの現場』編集長を経て、文字デザイン専門誌『Typography』を創刊。デザイン書編集者として20年近く活動。デザイン関係の雑誌・書籍・ウェブサイトの編集のほか、それを読むやワークショップなどの企画・運営を行う。