第0回:池上高志 × nor - 自然物と人工物の狭間で

第0回:池上高志 × nor - 自然物と人工物の狭間で
建築家、デザイナー、音楽家、エンジニアなど各分野の一線で活動するクリエイターが集い、2017年に結成された「nor(ノア)」。「人工生命」や「共感覚」など、画一的な定義では捉えにくい領域に踏み込み、サイエンスやテクノロジーの知見などを活用したインスタレーション作品を制作・発表し、各界から注目を集めている彼らと、“人の欲望や本質にきちんと刺さるものをつくるにはどうしたらいいか……?”を探っていく連載「be beyond」。本連載最初のゲストに選んだのは、生命の成り立ちや仕組みなど生命現象の原理に迫る「人工生命」を研究する池上高志さんだ。研究の傍ら、さまざまなクリエイターらとともにアート作品の制作にも携わっていることで知られ、nor結成のきっかけとなったハッカソン『3331α Art Hack Day 2016(以下、Art Hack Day)』の審査員も務めた池上さんとの対話から見えてくる、両者のアート観、生命観とは?

「生命らしさ」を形成するもの

福地諒(以下、福地):池上先生との出会いは、2016年のArt Hack Dayですが、これがnor結成のきっかけにもなっています。このそれを読むに集まってきた面々で話をする中で、物事の本質を追求するような創作活動がしたいという意識を共通して持っていたことや、Art Hack Dayで与えられた人工生命というテーマに対する捉え方が近かったことから、チームを組んで継続的に活動していくことになりました。

福地諒(プランナー / コンセプター)<br><a href="https://nor.tokyo/makoto-fukuchi" rel="noopener" target="_blank">https://nor.tokyo/makoto-fukuchi</a>

福地諒(プランナー / コンセプター)

池上高志(以下、池上):この時にnorがつくった「SHOES OR」(※生命体としてのテクノロジーというテーマのもと、無機物である靴とのコミュニケーションの中に生命性を見出そうとする体感型インスタレーション)は、非常におもしろいと感じました。 例えば、虫かごに入ったクワガタのように、毎日中を開けて確認したくなるものってありますよね。

次に見た時に変化があるかもしれないと思わせてくれる生命のようなものを人工的につくれないかという思いが研究のベースにあるのですが、「SHOES OR」にはそれに近いものを感じました。「生命らしさ」をつくる上で大切なのは、そこに存在している雰囲気のようなものだと思っていて、この作品にはそれが上手く表現されていました。僕は常々、関わり合いを持つことによって生命性が立ち上がると考えているので、鑑賞者が作品と一対一で対峙するだけでなく、ステージに足を踏み入れることで生命の存在感を体感できるというアプローチも的を射たものだと思いました。

池上高志(東京大学大学院情報学環 教授)

池上高志(東京大学大学院情報学環 教授)

中根智史(以下、中根):ありがとうございます。僕たち自身もこの作品の制作を通して、人工生命というものをより深く理解できたところがありました。

松山周平(以下、松山):最新作の「dyebirth(ダイバース)」(※水やインク・化学物質などが混ざり合うことによって生まれる物理現象を電子制御することで、絶えず有機的な模様を描き出し続けるインスタレーション)も人工生命と関連した作品です。なにかしらアナログの手法を用いて、デジタルでは表現できない美しいものをつくれないかという考えからスタートし、人工生命の研究要素などを取り込んだアウトプットを模索していきました。

板垣和宏(以下、板垣):この時は、インクや化学物質などが混ざり合う時に生まれる複雑な物理現象を、あえて電子制御してみるということにたどり着き、そこに生命の誕生や進化、淘汰などのプロセスを再現した数理モデルである「ライフゲーム」を滴下アルゴリズムとして用いて生命性というテーマにアプローチしました。

松山:この作品では、「ランダムのコク」というものにこだわったのですが、それはつまり単なるランダムということではありません。作品のテーマにも繋がるライフゲームのアルゴリズムを用いたことで、インクの混ざり方に納得感のようなものと、思わず写真に撮りたくなるような美しさが生まれたのだと感じています。

松山周平(プログラマー/ヴィジュアルアーティスト)<br><a href="https://nor.tokyo/shuhei-matsuyama" rel="noopener" target="_blank">https://nor.tokyo/shuhei-matsuyama</a>

松山周平(プログラマー/ヴィジュアルアーティスト)

池上:ランダムのコク、良い言葉ですね(笑)。味のあるランダムネスというのは僕も以前から考えていることなのでよくわかります。

なぜアート作品をつくるのか?

板垣:池上先生は、人工生命や複雑系の研究をされていますが、これらとアート活動はどのようにリンクしているのですか?

板垣和宏(建築家 / エクスペリエンスデザイナー)<br><a href="https://nor.tokyo/kazuhiro-itagaki" rel="noopener" target="_blank">https://nor.tokyo/kazuhiro-itagaki</a>

板垣和宏(建築家 / エクスペリエンスデザイナー)

池上:研究を始める前段階の原理的な考え方やコンセプトのようなものだったり、普遍性や再現性が担保できず、研究という観点からは捨てざるを得ないけれど、現象としてはおもしろいものなどが、アート作品としてあふれ出ていくようなイメージです。どんなに科学的な裏付けがあっても、つまらないものはつまらないと思ってしまうタイプなので、結果的に研究とアートの両方に取り組まざるを得ないんです。

中根:アートとしての美しさを追い求めていく行為が、研究にフィードバックされるようなこともあるのですか?

中根智史(ハードウェアエンジニア / ワークショップデザイナー)<br><a href="https://nor.tokyo/satoshi-nakane" rel="noopener" target="_blank">https://nor.tokyo/satoshi-nakane</a>

中根智史(ハードウェアエンジニア / ワークショップデザイナー)

池上:アートとしての美しさを追い求めるということはありません。僕にとってアートとは、表現の手段ではなく、実験の場をつくるようなものなんです。現実世界に実験の場をつくることによって、論理的に思考することとはまったく異なる身体的な理解が得られるし、そういうものが自分の無意識の部分にフィードバックされている気がします。

最近の科学は、おもしろい部分がどんどん削られているように感じていて、論文などにしても個人の主観よりも客観的なデータの提示ばかりが求められる傾向があります。科学において普遍性は大切ですが、これだけ変化が早い時代にそれだけを追いかけていていいのかと。サイエンスを成立させるための別のアプローチをもっと考えるべきだし、いかにフレームの外に出るのかということは、生命を研究する上でとても大切なことだと思っています。

林重義(以下、林):僕らが作品をつくる時も、最終形を明確に描いてから進めるのではなく、実験を繰り返しながらアウトプットに近づいていくところがあります。メンバー各々が携わっている日々の仕事にはさまざまな制約があるので、norでは制約を越境して、サイエンスなどの知見を取り込みながら、自分たちも想像できない領域に足を踏み入れたいという思いがあります。それが自分たちにとってアート作品をつくる意味なのかなと。

林重義(プロデューサー)<br><a href="https://nor.tokyo/shigeyoshi-hayashi" rel="noopener" target="_blank">https://nor.tokyo/shigeyoshi-hayashi</a>

林重義(プロデューサー)

池上:平田オリザさんの「東京ノート」が好きなのですが、この戯曲ではストーリーありきで配役するのではなく、自分が好きな俳優たちに何をさせたいのかという発想からつくられていて、とても共感できるんです。自分のアートにおいても、こういう面白い現象があるから、これを使って遊びたいということが起点となり、実験と生成を繰り返すことで見えてくるものを探っているところがあります。以前に、メディアアーティストの三上晴子さんの制作現場を見たのですが、まるで遊んでいるかのように感覚的につくっていく様が素晴らしいなと感じました。norにもそういう側面があるように感じるし、そもそも科学というものだって、本来は遊びの要素がもっと大きかったはずで、いつからこんなに真面目になってしまったのかなと思いますね。

自然物と人工物の狭間で

林:池上先生が以前から話されている「人のためではないアート」という言葉が気になっています。僕らはまだそこにはたどり着けていませんが、池上先生の考えをお聞きしてみたいです。

池上:人に評価されなければアートではないという考え方が好きではなくて、誰も見ていないものでもアートになり得ると思っています。以前から、先進的な科学技術というのはアートにもなると考えてきたのですが、例えば火星探査機というものは非常に美しいと思うし、その技術やメッセージ性にアートや生命を感じるんです。

板垣:それは、自然の風景を見て美しいと感じることにも通ずるような気がします。というのも、マクロな視点で考えると、自然物というのもある種のプログラムによって生成されたものと捉えられると思うんですね。自然現象によって生まれた造形というのは非常に美しく、同時に合理的でもある。それに近いレベルでものがつくれたらいいなと思うことがあります。

池上:自然現象をプログラムと捉えるのであれば仰る通りだと思います。ただ、僕自身は人工物が大好きなんです(笑)。例えば、Long Now Foundationという団体が主体となり、ブライアン・イーノなども関わっている、1万年にわたって時を刻む時計をつくるというプロジェクトがあります。この背景には、1年後には壊れてしまうかもしれない精密機械よりも、1万年後も動いているものをつくりたいという思いがある。1万年の時に耐え得る自然物なんていくらでもありますが、人の手によってそれを獲得しようとする行為に美しさを感じます。

林:人の手によってつくられたものには、自然の美しさを獲得しようと挑むことの儚さや、つくられたものへの同じ人間としての愛着のようなものがありますよね。僕たちも自然現象をただ作品に適用するだけではなく、それらを応用しながら表現として昇華して作品をつくっていく行為に意味があるのかなと感じています。

池上:テオ・ヤンセンの「STRANDBEEST」や、コッドアクトの「Nyloid」という作品が好きなのですが、これらは極めて人工的でありながら、予測不能な凶暴性や自立性を感じさせる佇まいがある。最近はこうした半分自然、半分人工物のようなハイブリッド型のアートが面白いと思っています。最近のバイオアートなどはやや頭でっかちなところがあると感じていて、もう少しシンプルで野性的なアートの方に僕は価値を感じますね。

福地:削ぎ落としていくのは非常に難しいことですが、だからこそ本質が見えてくる部分はありますよね。知識を獲得することはもちろん大切ですが、それを前提にしたピュアネスというものがキーワードになる気がします。

池上:例えば、人をいくら解剖しても人間性の正体というのは見つからなくて、それが生命の不思議なところなんですよね。仕掛けがないのに生命らしく見えるものができたら素晴らしいし、norには今後もぜひそんな作品を作り続けてほしいです。今年は人工生命国際会議「ALIFE 2018」もあり人工生命に注目も集まりますしね。

Takashi Ikegami Laborator

人工生命国際会議「ALIFE 2018」

取材・文:原田優輝 撮影:後藤武浩

nor(creative label)

建築家、デザイナー、音楽家、エンジニアなど多様なバックグラウンドをもつメンバーによって2017年に発足。テクノロジーを活用して、一般化された定義では捕捉しきれない領域へのアプローチを行っている。

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