VRプロジェクションマッピングならではの没入感の高い体験を実現「傷物語VR」

VRプロジェクションマッピングならではの没入感の高い体験を実現「傷物語VR」

世界的に驚かせるような高い技術じゃなくても、アイデアや技術の掛け算が新しい作品を産み出していく、面白法人カヤックの天野です。 映画やアニメで見た近未来の技術が実現し、身近に触れられるようになってきました。「Pokémon GO」で有名になったAR(拡張現実)やPlayStation VRは、家庭でバーチャルリアリティ体験ができる機器です。未来を感じる技術が一般的に触れやすい時代になった今だからこそ、それぞれの環境やニーズに合わせたコンテンツ開発が必要になっていると思います。

ノンゲームにおけるVRコンテンツ

ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の秋山賢成さんから「PlayStation VRを使った、なにか新しいものをつくりましょう!」とお声がけいただき、西尾維新先生の人気小説「傷物語」のVRコンテンツ企画を進めていきました。ゲームをつくるという選択肢もあったと思いますが、展示や映像制作の経験からノンゲームで面白い表現を生み出せると思い、ノンゲームのVRコンテンツを考えていきました。

VRコンテンツは360度の動画が一般的に普及していて、さまざまな角度で見渡す事はできますが、“観賞”はできても“干渉”する事はできません。ですが、SIEの秋山さんと議論を重ねながらVR空間でプロジェクションマッピングをすれば、単なる鑑賞にならずにVRならではの映像体験ができるのではないか?というアイデアにたどり着きました。

VRプロジェクションマッピングとは

「傷物語VR」は、「仮想空間」上に「現実空間」を再現することを軸に、演出を構成しています(ちょっとややこしいですが……)。映像の冒頭では、現実空間でできる/起こりうることを意識して、リアルなプロジェクションマッピングを行なっているのですが、シーンが進むにつれて、水たまりや霧などに映像を映すことで、現実では体験できない演出を盛り込んでいます。

仮想空間の存在とコミュニケーションを演出するにあたり、「傷物語」に登場するヒロインのキスショットと映像を見るという1つの目的を共有しながらストーリーを進行させていきます。構造的には擬似デートに近く、映画館や展示それを読むで見ていた映像体験を(より)リアルに味わえるようになっています。

「傷物語」のヒロインのキスショットと映像を見るという目的を共有しながらストーリーは進行する

「傷物語」のヒロインのキスショットと映像を見るという目的を共有しながらストーリーは進行する

本作で特におもしろいのは、鑑賞している視聴者がいる場所を一気に丸ごと変化させたり、モチーフが空間を飛び回ったり、物理的制約を受けないVRならではの表現を多用していることです。自分以外の存在をそばに感じながら、仮想空間で現実を再現した上で、さらに仮想空間でしかできない演出を盛り込むことで没入感が高い体験になっていると思います。

VRプロジェクションマッピング制作工程

企画から制作に入っていく段階でさまざまな演出資料をつくりました。大きくは3つです。

・全体のストーリー
・キスショットとのコミュニケーション
・VR演出

全体のストーリー
最初は、字コンテ、絵コンテでキスショットのやりとりをつくりました。ユーザーがVR空間の映像を見る体験の中で、キスショットと一緒に見ることがポイントの1つです。そのため、通常のVR演出とは別にキスショットとコミュニケーションするための演出が必要になりました。

初期コンテ

初期コンテ

キスショットとのコミュニケーション
キスショットとのコミュニケーションをつくっていくときに、ユーザーはどこを見て欲しいのか?どのような物語を描いていくのか?それらを熟考しながらプロットを考えてきました。

視界外(真横)からキスショットが話しかけることで、ユーザーの視線を移動させて「VRは空間を感じる」コンテンツだと初見の人でも理解してもらうとともに、作為的に視線移動をさせるというのが、本コンテンツには随所に盛り込まれています。

「VRは空間を感じる」コンテンツだと初見の人でも理解してもらうため、作為的に視線移動をさせる

「VRは空間を感じる」コンテンツだと初見の人でも理解してもらうため、作為的に視線移動をさせる

VR演出
初期コンテをさらに演出用に再構成したのが以下のラフスケッチです。

演出コンテβ

演出コンテβ


あまり枠にとらわれず描きたかったので、白い紙にポコポコとイメージの断片を書くようなやり方をしています。このあたりから開発モックを進めてもらいつつ、イメージデザインをつくりはじめていきました。

空間を埋め尽くす5面映像:イメージデザイン

空間を埋め尽くす5面映像:イメージデザイン

空間が光に包まれ疾走感を出す:イメージデザイン

空間が光に包まれ疾走感を出す:イメージデザイン

このような過程を経て開発が進め、映像、正面画面、引きの空間などの絵を同時に録画再生し、そこへイメージスケッチやフィードバックコメントなどを記載し、各部分がどのようになっているのかを全体把握しながら演出を加えていくという手法でVRコンテをつくっていきました。実はけっこう地道な作業なんです……。

空間全体を把握するための:Vコンテ

空間全体を把握するための:Vコンテ

このようにして没入感ある演出を考えると共にバーチャルリアリティへ観賞し干渉するのはどうすれば良いのか?っということを模索していったのです。

ここまでVR空間でプロジェクションマッピングするというアイデアから、制作のプロセスを説明してきました。しかし残念ながら「傷物語VR」は、一部の限られた方しか鑑賞できませんでした。

が!西尾維新先生の〈物語〉シリーズ初の劇場版作品「傷物語」全三部作の完結編となる「Ⅲ冷血篇」ブルーレイ&DVDの発売を記念して、2017年7月12日から「傷物語VR」が無料配信されています!無料ですが、無料のクオリティじゃないです!ぜひぜひ、ご覧ください!

傷物語VR

天野清之

天野清之(面白法人カヤック)

面白法人カヤック 企画部・技術部 クリエイティブ・ディレクター/テクニカルディレクター。「24時間遊び24時間働く」を体現するクリエイター。特にカルチャー系に強く、MVからそれを読む企画まで、手掛ける仕事は多岐にわたる。笑いすぎると何を言っているのかわからなくなってしまう。

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